2014-09-17  毎日新聞 京都 京の人 今日の人 東寺「両界曼荼羅図」の模写を手がけた仏絵師 藤野正観さん

京の人 今日の人


毎日新聞Web版より画像を拝借しています
「両界曼荼羅図」の模写を手がけた仏絵師
藤野正観さん(63)=京都/西京区=

現存最古の彩色曼荼羅(まんだら)とされる東寺(京都市南区)の国宝「両界曼荼羅図」(9世紀ごろ)の模写を弟子たちと手がけ、8月に完成させた。
およそ2年の制作期間中にがんを患い、闘病しながらの制作となった。「自分の集大成のつもりです」。大作を前に感慨深げに語る。
染織図案家として日本の伝統的な美を追求する日々を過ごしていたが、84年に父親から「西国三十三所巡礼用の集印軸に観音の絵を描いてほしい」と頼まれたことがきっかけで仏画の世界に飛び込んだ。
「不思議な心地よさを感じ、『自分が描きたかったものはこれだ』と思った」と振り返る。
「0・何ミリずれるだけでまったく表情が違うものになる」という繊細な線が生み出す美しさに魅せられ、多くの仏画を描いてきた。
2012年秋、高野山真言宗の準別格本山、放生寺(東京都新宿区)から、異国情緒が漂うミステリアスな曼荼羅として知られる両界曼荼羅図の模写を依頼された。東寺から提供してもらった資料を基に丁寧に下図を描き、パソコンも駆使して全体像を組み立て始めた。
肺がんが見つかったのはそんなさなかだった。
頭に浮かんだのは「あの曼荼羅だけは完成させたい」という思い。病院にパソコンを持ち込み、手術前日まで下図の制作に打ち込んだ。幸い手術は成功。現時点では再発も見つかっていない。
施主側は「描かれた当初の姿を」という希望だったが「祈りがささげられてきた時間をも表現する」ということにこだわった。鮮やかな色彩の中にも、隣り合う色同士がなじみ合うようにして時を表現した。
「仏画は『我』を消して描くもの。
自分の思いは込めない」と言い切る。
ただ「絵を見た人の心の内側から慈悲の心がにじみ出てくる。そんな仏画が死ぬまでに描けたら幸せです」と笑った。【花澤茂人】


◎略歴
ふじの・しょうかん 1950年、滋賀県五個荘町(現東近江市)出身。
地元の高校を卒業後、68年に染織図案家の故・本澤一雄氏に弟子入り。
88年から本格的に仏画制作を開始し、これまでに浅草寺(東京都)や延暦寺(大津市)など多くの寺院の仏画を描く。

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