中外日報 1998年(平成10年)5月9日  話題 より 2/5紙面

滋賀県秦荘町の歴氏文化資料館
ふるさとの文化学び心の教育
町に伝わる仏教説話
絵巻を複製・・・常設展示

 
 琵琶湖湖東に位置する滋賀県愛知郡秦荘町(北川眞道町長)は、行政レベルで仏教美術の伝承に取り組んでいる。
このほど、同町に伝 わる物語「金台寺矢取り地蔵縁起記」の絵巻の複製が、 原画を所有する同町住民の協力を得て滋賀県出身の 仏画家、藤野正観氏の手により完成。「誇れるふるさと」を目指す同町に新たな話題が生まれた。


複製絵巻を広げる西村収入役

秦荘町は、湖東三山の一つ天台宗金剛輪寺(濱中光礼住職)に代表されるように、平安京以前から仏教の発展と共に拓けた土地。
平成六年に完成した秦荘町歴史文化資料舘(吉岡敏郎館長)爪には金剛輪寺を はじめ、町内各社寺の宝物を常設展示し、仏教美術との縁の深さをアピールしている。
町を挙げて仏教美術に取 り組む姿勢が明確になったのは、廃仏毀釈でボストン美術館蔵となった金剛輪寺 旧蔵「金銅造聖観音坐像」 の複製を町主体で制作して から。
その真意は、同町の 西村新八郎吸入役が心の教育が全国で叫ばれているが、自らの住む町に誇りが持てなくて、心の教育などできるはずがない。行政と してすべての住民がふるさ とを誇れるよう資料の作成・展示、PRに努めるのは当然のことです」と語る言葉に現れている。
完成した絵巻は『今昔物語』にも登場する物語。同町で古くから度々起こった水争いを題材にしている。
隣郷が水を求め兵を集めて地元に載りこんで来たが、地元側はわずか六人でこれ に迎え打つことになる。
困 り果て信仰する地蔵菩薩に祈願する、一人の青年僧 が現われて敵の射た矢を拾い集め六人に手渡す矢は、なぜか必ず敵に命中し、水を守ることができた。
翌日、地蔵菩薩に詣でると、その頭には矢が刺さりら、血が流れていたという伝説。
同町の民家には今でも一家に一体必ず地藏菩薩を奉っているという。
同町住民と地藏菩薩の関わりは深く今回の複製制作の意義は大きい。
浄土真宗本願寺派浄甫寺の住職でもある北川町長は 「『地藏菩薩霊験記』や、 『今昔物語』に登載されてる当地の物語である金台寺矢取地蔵縁起記″の絵巻が、今回、所有者ご一家のご好意により、複製製することができました。資料館で個 人所有の宝物を一般公開する場合、ややもすると灘しいことがございますが、こ れにまりいつでもご覧戴くことができるようになり、皆さんに喜んで戴けると確心しております。」と話している。
なお、同町では今秋に資料館での大規模な仏教美術展を計画しており、この絵巻も、お披露目される予定。